ファーマコゲノミクス (PGx) とは、ゲノムの種々のコンポーネント (ゲノム配列の変化、染色体の構造変化、エピジェネティックな変化、遺伝子発現プロファイルの変化、non-coding RNAの変化など) の薬物反応性への 関与を指します。遺伝的要因が薬物反応性に影響を与える主要なメカニズムには、薬物動態への影響、薬物力学への影響、特異体質反応への影響、発病/重症度と特異的治療に対する反応への影響が挙げられます。 米国食品医薬品局 (FDA) が薬剤ラベルへの記載を承認している遺伝学的バイオマーカーは362個あり (2019年8月現在) その疾患別内訳を図に示します。
PharmGKB (https://www.pharmgkb.org/) においてPGxのレベルは以下の4段階に分けられています。
FDAに承認されたPGxラベル数が最多の疾患は腫瘍 (Oncology) です。腫瘍のPGxにおいて、生殖細胞系列のバリアント情報は薬物副作用の起こり易さや一部の遺伝性腫瘍に関連した (抗がん薬の適応) を予測するために用いられます。 一方、腫瘍の体細胞変異に注目し、その情報をもとに抗がん薬への反応性を予測するのがコンパニオン診断です。
以下、我が国で日常的に用いられている生殖細胞系列バリアントのPGx検査の例を示します (2019年8月現在)。
遺伝子名 | 対象薬剤名 | 疾患 | 備考 |
---|---|---|---|
UGT1A1 | イリノテカン | 肺がん、大腸がんなど | 重篤な副作用の回避。保険適用。推奨レベル (PMDA) 。 |
TPMT | メルカプトプリン | 白血病 | 重篤な副作用の回避。推奨レベル (FDA) 。 |
VKORC1 | ワルファリン | 血栓症 | 投与量決定の至適化。Actionable PGx。 |
HLA-B*5701 | アバカビル | HIV | 重篤な副作用 (過敏反応) の回避。要求レベル (FDA) 。 |
IL28B | ペグインターフェロン+リバビリン併用療法 | C型慢性肝炎 | 薬効の予測。2010/08/01〜2016/04/01の期間、先進医療として実施。Actionable PGx。 |
BRCA1, BRCA2 | リムパーザ | 乳がん・卵巣がん | 抗がん薬の適応を判定。保険適用。遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因遺伝子。要求レベル (FDA) 。 |
NAT2 | イソニアジド | 結核 | 重篤な副作用 (特に肝障害) の回避。Informative PGx。 |
CYP2D6 | エリグルスタット | ゴーシェ病 | 症状改善。グルコシルセラミド合成酵素阻害剤。要求レベル (FDAとPMDA) 。 |
POLG | バルプロ酸 | てんかん等 | 重篤な副作用 (肝障害、死亡) の回避。要求レベル (FDA)、Actionable PGx (PMDA)。 |